『人形』

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 友達の家には、とても古い人形が1つだけポツンとあったのを今でも憶えてる。  日本独自の伝統を感じさせる市松人形でもなく、洋風なアンティーク人形の繊細な美しさもないごくごく平凡な母が造ったような人形。  赤いスカートに白いワイシャツ。腕の長さが微妙に違う体に黄色の毛糸の髪。縫い目が目立つ顔は笑ってるのか解らない。  しかし、そんな不器用な人形には不思議な魅力があった。  手に取ろうとすると見張っていたかのように友達が飛んできて、「ダメッ!」と言って、目の前に立ち、人形を隠す。  しかし友達の陰に隠れた人形を一度だけ見たことがある。  その人形は笑っていた。  いや、怒っていた?  怒りながら笑っているように見える人形に恐怖を覚え、それ以来友達の家に行かなくなった。  そして、その友達はどこか遠くへ引っ越した。  今となっては友達も人形もどうなったか解らない。  もう一度だけ見てみたいと思う私は少しおかしいかな?
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