『落書き』

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 私には両親と三人のきょうだいがいて、少しだけ貧乏だった。  思春期にはそれが嫌で母さんに暴言をはいたこともある。しかし今となって四人の子供がいて養う大変さが解ってきたような気がする。  ……私が家を出れば負担を軽くできる。  そう思ったから出る準備をしている。 「よしっ! 次は押し入れだ」  物が積み込まれた漁り始める。中から色んな物が出てきた。  家族のアルバム、友達から貰ったストラップ、お下がりの制服など……。本当に色々あった。  それを全部出して、分別を始めた。  ほとんどが片付き終わった頃、煤けたファイルみたいなものに気付く。  ……これ、何だろう?  そう思って開けてみると沢山の紙が床に落ちた。  落ちた紙をよく見ると作文用紙。どうやら、小学生の頃に書いた作文を入れたものだったのだろう。  幼い字で一生懸命に書いている作文を見て思い出に浸っていたとき――。  私は気になる作文を見つけた。  『私の家族』という題名。 「わたしにはお父さんとおかあさんとおとうとが二人いもうとが一人います。 お父さんはいつもはたらいてていえにいないときがおおいけど大すきです。おかあさんはおこるとこわいけどやさしいです。おとうとといもうとはうるさくてわがままだけどかわいいです。 そんなかぞくが一ばんすきで、ずっといっしょにいたいとおもいます」  作文はそこで終わっていた。  その横には、顔の大きい家族の絵がとても楽しそうに笑っていた。 「幼いな、私……。折角の決意が揺らいじゃうじゃない」  本当は家を出たくないよ。でも決めちゃったから仕方ないよね。
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