渇き

2/4
前へ
/33ページ
次へ
O町の駅から、そう遠くない閑静な住宅街。表札に「佐々木」と書いてある家の二階で、この家の長女である陽子は深い眠りから覚めた。 体が重い。意識も、どこかまだ眠りの中に居るような感じで、はっきりしない。 壁の時計を見ると、既に夕方の5時を回っている。 私、なんでこんな時間まで寝ちょるんじゃろ?なんでこんなに、具合悪いんじゃろ? 辺りを見回しながら考えるうちに、ひどく喉が渇いている事に気付いた陽子は、おぼつかない足取りで一階に降りると、冷蔵庫の中の麦茶と牛乳とオレンジジュースを、瞬く間に飲み干した。 それでも、喉の渇きは一向に治まる気配を見せない。陽子は製氷室から氷を取り出し、口の中に押し込む。 「あれ?」 陽子はここでやっと、自分の体に起きた異変に気付いた。 口の中に入れた大きめな氷が、まるで綿菓子のように溶けて無くなったのだ。 何かの間違いか、まだ自分が寝ぼけているのだろうかと、もう一度よく確認して氷を選び、まだ潤っていない口中に放り込む。 今度は、はっきりした。やはり間違いない。普通なら5分以上かけて、ゆっくり溶けていく筈の氷は、陽子の口の中でほんの4~5秒後、跡形もなく消え失せた。 動き辛いが出来るだけ足早に洗面台の前に移動し、ゆっくりと口を開けると、自分自身の口中を注意深く覗き見る。 殆んど渇いている以外、何の異常も無いようだ。 しかし、この渇きと先程の氷の溶け方には、きっと何かの関係がある筈だ。陽子は相変わらず動き辛そうに足を進め、リビングに移動すると倒れ込むようにソファーに体を預けた。 両親は、夜7時を回らないと帰ってこないだろうが、もうすぐ部活を終えた妹が帰宅する筈だ。 自分のパジャマには着替えているし、風呂にも入ったようだが、どう考えても昨夜の記憶が無い。 昨日は、夕方帰宅した妹と一緒に夕飯のお使いに行った後、父の晩酌の相手をして少しのビールを飲んだ。 その後家族で夕飯を済ませ‥ いくら思い出そうとしても、夕飯を食べた後からの記憶が、皆目無い。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加