渇き

3/4
前へ
/33ページ
次へ
ソファーに横たわった陽子があれこれ思いを巡らせていると、程なく玄関の鍵を開ける音がして、妹が「ただいま~」の声を上げながら帰って来た。 そのまま二階に上がろうとしたようだが、リビングのソファーに陽子の姿を見つけ、驚いた様子で声をかけてきた。 「姉ちゃん!起きたん!?大丈夫なん!?」 「夜、すごい遅う帰って来てから誰に何も言わんと寝るし、朝は朝で部屋に鍵かけたまま、時間になっても降りて来んし、お父さんもお母さんも呆れちょったよ~?」 自分から欠落した昨夜の記憶が、妹の話から少しは拾えるかと思ったが、あまり期待した効果は無かった事に落胆して、陽子は小さなため息をつくと、妹に 「ごめんね、美幸ちゃん」 と答えて、逆に聞き返した。 「あたし、お父さんとビール飲んでからさぁ、なんで出かけたんじゃったっけ?」 妹、美幸は、目を丸くしながら呆れた様子で 「え?何言いよるん、本当に大丈夫?」 「姉ちゃん、朝陽のおじちゃんのお店にお使い行ったのに、朝陽に行かんで帰って来たんよ!?」 「朝陽」とは、両親の知人が経営する駅前の焼き肉屋だが、昨夜自分は急遽父の言い付けで、今日の夕飯用の肉を貰いに行ったと言うのだ。 「‥あ‥そうだっけ?ごめん」 そう言われても、実は思い出せてはいないのだが、半ば会話の流れに任せて謝ると、美幸はまだ何かぶつぶつ言いながら、リモコンを手に取りテレビの電源を入れた。 ローカル局にチャンネルを合わせると、ちょうど夕方のニュースの時間だったようで、駅の機関庫で起きた怪死事件を、特集を組んで報道中だった。 妹の美幸がすかさず 「そうそう!姉ちゃん知らんじゃろ!?機関庫で人が二人、焼き殺されたんて!」 「しかも、全身炭になるまで焼かれちょるのに、顏だけは焼かれちょらんのって!」 と、興奮したようにまくし立てる。 画面は、事件現場でのレポートからスタジオに切り替わり、二人の被害者の身元と顏写真を映しだした。 その瞬間 陽子の体の中で、明らかに陽子以外の鼓動が体を揺るがすようにドクンと響いた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加