蛆虫

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蛆虫

時は少し遡り、哀れな犠牲者となった二人の男が、駅から繋がる商店街の中程にある食堂「隆盛」に陣取り、今夜の獲物を捜す頃、「隆盛」より少し駅から離れた路上に、奇妙な光景があった。 お決まりのように、老婆が一人切り盛りしている駄菓子屋の前、幼稚園児くらいの子供達が五人、路上の一点を見つめて中腰のまま円を描いてじっとしている。 普段なら、五人の内の誰かが落とした駄菓子の破片を、名残惜しそうに見つめるかそれに群がる蟻の群を観察している場面だが、今日は違った。 子供達の凝視する路上の一点。 蛆虫。それは一見すると蛆虫に見えた。 しかし、子供の目にも蛆虫とは決定的に違って見えたのは、色だった。 普通、乳白色を有する筈のそれは、事もあろうに薄く七色に、しかも僅かだが発光しているのだ。 「これ、何かねぇ?」 五人の内に二人いる、女の子の内の一人が隣の男の子に尋ねる。 「‥蛆‥じゃないよねぇ、色が変なもん」 現代に比べ、塵の廃棄場は数多く点在し、また殆んどの民家では汲み取り式のトイレ(便所と呼ぶ方が相応しいだろうか)が主流である為、今の子供達より本物の蛆虫を知っている五人は、普段目にする蛆虫とは確実に異なるそれを、少しの異怖とそれを遥かに上回る興味を持って、観察を続ける。 「こら!まあ君!」 不意に駄菓子屋の脇の狭い路地から声がすると、まあ君と呼ばれた体つきの小さな男の子が反射的に顏をあげた。 「姉ちゃん!」 多分、遊びに出る事を言ってこなかったこの男の子は、姉とのやり取りもそこそこに、「わし帰るわぁ!」と友人達に別れを告げ、弾かれるように姉の来た狭い路地を走って行った。 この一人の離脱を引き金に、未知の生物への興味に後ろ髪を引かれながらも、小さな観察者達は各々の家路に向かった。 取り残された蛆虫擬きは、監視の目が無くなったのを察知したのか、はたまた己れの本来の姿を思い出したのか、信じられない行動を起こした。 一際鮮やかに光ったそれは、数本の針のようなスパイクを突出させ、僅かに伸びた体を一度曲げると、凄まじい初速で駄菓子屋から離れ、商店街から一つ隣の通りにある、O町で一番賑わうスーパーマーケットの中に、正に突入して行った。
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