蛆虫

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夕暮れ時の一日で最も買い物客で賑わう店内に、足元を超高速で飛ぶ蛆虫。 その存在に気付くには蛆虫の動きはあまりにも速く、二~三分店内を滑空した後、やがて誰にも気付かれないまま狙いを定めたように一人の買い物客のふくらはぎに、勢いよく激突した。 数時間後に二匹の野獣に襲われ、二人の犠牲者を出すことになる女のふくらはぎに。 「痛っ!」 ふくらはぎに予期しない痛みを感じ、小さく叫びながら自らの足元にうずくまる女。 「姉ちゃんどうしたん?大丈夫なん?」 うずくまる女の妹であろう、まだ少し幼さの残る顔立ちの学生風の女が、心配して声をかける。 「なんか、刺されたみたいなんよ、何の虫じゃろ?」 痛みに顏をしかめながら、刺されたであろう辺りを目と手で確かめてみるが、何故かなんの痕跡も無い。 不審に思い、何度も自分のふくらはぎを確認するが、やはり虫刺されの痕どころか、痣や内出血も無いようだ。有るのは、確実に何かに刺されたような足の痛みだけだ。 「変なねぇ、ぶち痛かったのに、なんじゃったんじゃろ?」 怪訝な表情の女。 「でもまあ、血も出てないけぇ良かったじゃあ?」 妹にそう促されて、それもそうだと思ったのか、女は苦笑いしながら立ち上がり、何事も無かったように再び店内を歩きだした。
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