其は襲う者也

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聞いたことはないだろうか? こんな都市伝説を。 感染する殺人衝動と目される都市伝説。 私はそれを雑誌の記事にしたく、関係する事件を捜し求めていた。 「頬の傷について、お探しですか?」 私が図書館で調べものをしていると、一人の女性に声をかけられた。 「ええ… 何かご存じで?」 頬の傷とは、感染する殺人衝動の巷の呼び名である。 「よく、存じています。」 女性は夏にもかかわらず、薄手とはいえ、鼻が隠れるほどにスカーフを巻いている。 「お話をお聞かせねがえますか?」 私は焦る気持ちを必死に押さえ込み、あくまで紳士的な態度を崩さない。 「ええ。 ここでは何なので、私の家にいらっしゃいませんか?」 私は優しい物腰の彼女に誘われ、家に上がり込んでしまった。 「どうぞ、おかけ下さい。」 「立派なお宅ですね… あなたの物なんですか?」 家には誰もおらず、靴も彼女のものしかなかった。 「いいえ。死んでしまった私の最愛の人が、残してくれた遺産ですので。」 「それは失礼。」 彼女はキッチンからコーヒーを3つ持ってきて、一つを仏壇に上げた。 鐘を2度鳴らし、手を合わせている。 どうやら、あの仏壇の人物が、彼氏さんらしいな… そうしているうちに彼女は私にコーヒーを出してくれる。 「どうぞ。」 「どうも、有難うございます。」 私は2度3度口を付けて、ソーサーにカップを置く。 「さて、頬の傷のお話でしたよね?」 「お願いできますか?」 彼女は小さくうなずき、付け加えるようにいう。 「私の話は彼が生前話してくれた内容も織り交ぜます。」 「お願いします。」 私はボイスレコーダーの電源を入れ、録音にした。
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