【短編小説第一弾】

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それは、遠い遠い、昔の話で、それでも僕は、艶やかに、その本を思い出すことができる。 その本には、タイトルが無かった。 分厚くて、埃っぽいハードカバーの、茶色い本。 いや、もしかしたら、色は茶色じゃなかったのかも。 そう、例えば、綺麗な、濃い、青い色だったのかもしれない。もしかしたら、真っ赤だったかもしれないし、黒や白、もっと色がいろいろ混ざっていたかもしれないし、模様があったかもしれない。 長い、長い時の中で、いろんなものたちに浸食されて、本はくすんでしまったのかもしれない。 本には、鍵が掛っている。 良くある、鍵付きの日記みたいな本だ。 これは日記なのだろうか。 しかし、あるべきところにタイトルがない。 日記ならばダイアリーの文字くらいどこかにありそうなのに。 痕跡さえ見つからない。 家の物置で見つけた、一冊の、とても、とても古い、本。 これの鍵は、どこにあるんだろう? 僕は、中身が気になって気になって仕方がない。
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