【短編小説第一弾】

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本は、長い時間雨風に晒されていたようだ。 紙の色が黄色く変色して、ぼろぼろになってしまっている。 いつから・・・家の物置にあったのか。 それは考えても、わからないかもしれないことだが、とにかく、この本には、僕を惹きつける、何かが、ある。 僕は幾度となく、家の者にも、近所の者にも、この本のことを聞いたが、一向に鍵は見つからなかった。 中には、何が書かれているんだろう? 誰かの日記、だろうか。 それとも、切ない詩か、恋愛小説だろうか。 推理小説や、ホラー小説なのかもしれない。 もちろんSF小説の可能性だってある。 絵がたくさん描かれているのかもしれないし、譜面がたくさんあるのかもしれない。 もしかしたら、誰かの夢が語られているのかもしれない。 箱の中の猫の様に、開けて中身を確かめるまで、この本の中身は確定しない。 僕は妙な高揚感を覚えている。 ・・・この鍵を、鍵屋に頼めば、開けるのは簡単だ。 だけど、それは、この本に対して、フェアではないような、そういう気がした。 それに、僕の気持ちに対しても、それは裏切り行為のように感じられた。 僕は毎晩本の中身を想像した。 本は僕の期待に応えるかのように、様々な夢を見させてくれた。 ある日、僕はふと、本の中身に気が付いてしまった。 そう、真相は、そういうことだったのだ。 本が、僕に様々な夢を見させてくれる理由。 それはそういうことだったのだ。 だから、この本は、長い、とても長い時の中で、誰に鍵を開けられるでもなく、誰かの手から、誰かの手へと渡って、僕の元へ、やってきたのだ。 そうか、そう・・・なのか。 そして、この本も、そろそろ死期が近い。 その生涯を終える時期が、近い。 僕には、わかる。なんとなくだけど。 たくさんの夢を運んできた、この本も、僕のところでその生涯を終える。 そういう感じがする。 わかるんだ。本当に。 だから、この本の夢を・・・ 次の世代に、託すのは、そう・・・ 僕の、仕事だ。 僕は、次の日、本屋へ向かった。 僕にはわかるんだ。 僕の仕事だから。 タイトルの無い、鍵付きの本が、一冊だけ、売っていることを。 その日、僕は、崩れて半分、砂になってしまった、古い、古い、僕の愛しい本とともに、眠りについた。 使用文字数:1302文字 作者:紅蓮の猫
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