君と出会った。

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憂鬱な気分で空を見上げた。分厚い雲が青空を独り占めするかのように覆い隠している。際限なく落ちてくる雨粒がさっきから地面にあたって弾けていた。 今日はうっかり傘を持たずに出かけていたのに加え、運悪く降り出したとき外にいたせいで濡れてしまった。濡れた髪が肌に張り付いて気持ち悪い。 僕はたまたまカバンに入っていたタオルで軽く身体を拭いた。服やカバンがあまり濡れていないのが救いだ。 傘を買う気にもなれず、雨宿りできそうなところを探してふらふらさまよう。 屋根伝いに進み始めて数分後、ちょうどよさそうなバーが見つかった。 程よく寂れていて、小さくて、僕好みだ。大して考えることもせずに中に入る。 カウンター席しかない店内には、僕と、もうひとりの男性と、マスター以外には誰もいない。 あまり近づくのもどうかと思って、彼から二つほど離れた席に座ると、ドライマティーニを注文する。 酒はあんまり飲まないのだけど、今日は飲みたい気分だ。それも、強めの酒。 僕は冷えた身体と、何だか虚しいような心を温めてくれるものを求めていた。 本当は誰か傍にいてくれる人が良いのかも知れないけど、今までにそんな関係の人は出来た覚えがなかった。 人を近付けずに生きてきたから。 昔から彼女が出来てもすぐに別れてしまうし、何かに執着なんてしたこともない。それに、誰かに好かれることもなかった。 今日だって、数少ない知り合いから珍しく呼び出しがあったから行ったら、合コンに行くから代わりに仕事をしろときた。完全なる悪意だ。 しかしそれも、僕には取るに足らないことだった。 ぼんやりと思考しながら、ドライマティーニに口をつけた。
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