君と出会った。

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からん、と氷がぶつかり合う涼やかな音がした。 目をやると、少し離れた彼がつまらなそうにチーズクラッカーをつまみながら、ちびちびとギムレットを飲んでいる。 見た目は僕と同年代くらいで、決して華やかに目立つタイプではないけれど、目鼻立ちが綺麗な男の人だ。 グラスを傾けたことで、また氷がからりと鳴った。 何故だか目が離せなくてずっと彼を見ていた。すると視線に気づいたのか、彼はこちらに目をやって話しかけてくる。 「ひとり?」 「うん」 「じゃあ、一緒に飲もうよ」 「どうして?」 「理由は必要?」 「出来れば。初めて会った君と何を話せばいいか僕には見当もつかないし、それに、僕は酒はひとりでって決めてるんだ」 そういいながら僕は彼に身体を向ける。 内心では、誘いに乗り気だった。それでも嫌がるようなことを言うのは、彼に僕を誘った理由を言ってもらいたいからだ。 それで僕の寒気も止まるかも知れない。 誰か、傍にいてくれるなら。 ほのかに笑った僕を見て、彼は言葉とは裏腹に僕が乗り気だということに気づいたらしい。 笑みの形に弧を描いた唇に指を当てて、考える素振りを見せながら言葉を紡ぐ。 「ううん……、おれさあ、退屈してたんだ。いつもはおれもひとりで飲むんだけど、君と一緒なら、きっと楽しいと思った。だから習慣を変えたくなったんだよ。理由はそれじゃダメかなあ」 黙って頷いて了承の意を示す。 ゆっくりとジャケットと鞄を持って、彼の隣の席へと移った。近づいたおかげで彼の顔がよく見える。 やっぱり、控えめだけど綺麗な人だ。白い肌の下の筋肉が緩んで笑顔を作る。 決して女性的なわけではないけれど、出来たえくぼは可愛かった。 「ねえ、君って少し変わってるね」 「よく言われるよ」 僕の言葉を聞いた彼は、ぱちりとまばたきをして、くすくす笑った。 「ほんと、面白いひとだね。名前は?」 「直樹。君は?」 「おれは裕貴。好きに呼んで」 カウンター横のジュークボックスの古びたスピーカーから流れる小洒落た洋楽は、ほんの少しだけ僕たちを饒舌にしてくれた。
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