君と出会った。

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酒の力だってあったのかもしれないけれど、その後すっかり僕と裕貴は打ち解けて色々な話をした。 たとえばグラスに添えられたレモンのことだったり、音楽の好みについてだったり、雨上がりに輝く水溜まりのことだったり。 そんな取り留めもないようなことばかりだったけれど、確かに楽しさはあった。 それでも、賑やかに盛り上がったわけではない。酒を飲む合間に交わす静かな会話は、とても雨の日の穏やかな雰囲気に似合っていたと思う。 汗をかいていたグラスが乾くくらいの時間は経っただろうか。店と同じくらい年取ったマスターが、僕らの会話が途切れた頃を見て呟く。 「雨が上がったみたいですね」 窓からすっかり暗くなった外を見ると確かに雨は止んでいた。でもまだ雲はかかっているのか、星は見えない。 裕貴はそっと俯くと言った。 「おれ、雨宿りだけのつもりだったけど、まだ帰りたくないなあ」 「なぜ?」 「言わせるんだ、直樹。わかってるくせに」 「僕はエスパーじゃないから、口に出して言われないとわからないよ」 彼はため息を吐いた。酔いか照れか、頬がほんのりと赤く染まっていて、すごく綺麗だ。 それから諦めたように睫毛を持ち上げて少し笑う。
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