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裕貴がゆっくりと口を開いた。
「ねえ、おれ、もう少し直樹と一緒にいたいな。もっと仲良くなりたいんだ。嫌?」
「ううん。光栄だな。僕も君といたいな、と思っていたから」
首を振って、裕貴の手を握る。暖かくて少しだけ、ほっとした。
こんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。
「だったら、僕の家に来る?」
口からするりと出た言葉は、彼は当然として、僕にさえも予想外のものだった。
けれどそれはごく自然なことに思えたから、訂正はしないでおく。
裕貴は呆気に取られたようにぽかんとしながら、呟いた。
「おれが、直樹の家に?」
「うん。あ、でも、来たくないかな。初対面で家って言うのも、嫌だろうし」
「そこは、別に良いけど……行ってもいいの?」
「もちろん」
一瞬複雑そうな表情を浮かべたけれど、彼はこくりと頷く。襟足の長い髪の毛がそれに合わせてさらりと揺れた。
「行ってもいいなら、行くよ」
「じゃあ決まりだね」
何でか気分が高揚している。僕は嬉しいんだろうか。裕貴がうちに来るから? 仲の良い、友人が出来たから?
まあ、そんなこと、どうでもいい。
マスターに合図して、さっさと会計を済ませた。荷物を掴んでジャケットを羽織りながら戸惑う裕貴を促す。
「裕貴、行こう」
「え、直樹、お金……」
「いいよ。僕がおごりたいから出させて」
「でも、」
「じゃあ次、払ってよ」
「……わかったよ」
ふわ、と笑う彼を見て、僕も知らない間に笑っていた。
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