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外に出てすぐに、むっとした空気に顔をしかめてしまうほど、蒸し暑い夜だった。雨上がりだから尚更に蒸されるような気分になって仕方ない。
濡れたアスファルトからは、少しだけ泥の匂いがした。
「家はこっち。歩いて十分も掛からないよ」
裕貴の前に立って道を案内する。早くクーラーを利かせられる家に帰りたいなあ、と思った。
そういえば、誰かを家に招くのはいつ以来だろうか。
考えてみたら、小学生の頃以来、誰も呼んだことがない。上京して独り暮らしを始めた高校の時も、彼女でさえ入れたことはなかった。
いつも一人で歩く夜道を、今日は二人で歩いている。何だか新鮮な気持ちがした。
会話はいつのまにか途切れていた。二人並んで一定のペースで歩く。裕貴の方が少し背が高くて、何となく悔しいような気分になった。
ぼんやりそんなことを考えていたら、空いた左の手を掴まれた。
「直樹、手、冷たいんだね」
「裕貴はあったかいね」
繋いだ手の温かさに、ほっと安らぐ。不思議と、嫌悪感はなかった。
僕と彼が出会ってからまだ数時間しか経っていないけれど、僕たちは十年来の付き合いであるかのように二人でいることを自然だと感じていた。
沈黙は息苦しくなくて、むしろ心地いい。
彼の隣は、どうしてか安らげる。会ったばかりなのに、馬鹿みたいにリラックスしていた。
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