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とても長いような短いような、でもたぶん二十分くらいの道程を経て、僕の家に着いた。鍵を開けて中に入ると涼しい空気が流れてくる。クーラーを消し忘れたまま出掛けていたらしい。
冷蔵庫からビールとつまみを取り出す。
カクテルみたいな洒落たものはない。普段僕は飲まないから用意していないのだ。裕貴にカクテルを飲ませられないこと、それを少し残念だと思った。
それらをテーブルに並べてソファに座る。対面式じゃなくて横並びの二人掛けだから、ちょうど裕貴の隣、右側だ。
「部屋、広いね」
「そうかな」
「広いよ」
彼がプルトップを開けてビールを喉に流し込む。僕は、反って晒された白い喉を純粋に綺麗だな、と思いながら見ていた。
裕貴は唇についた泡を拭ってから話しだす。
「直樹みたいなタイプ、初めてたよ」
「え?」
「おれのこと、警戒もしないで家に呼んで入れちゃって。おれが悪いひとだったらどうする気だった?」
「裕貴は悪いひとじゃあないでしょう」
彼は面食らったように目を丸くした。それから赤くなった頬を隠すように俯いて、やっぱり珍しいタイプだ、と呟いた。
ゆっくりとビールを飲む裕貴に合わせてまた二人でいろんな話をした。段々酔っぱらっていく彼が、少しばかり面白かった。
肩が触れ合いそうな距離に座りながら、目も合わせない。それでも心のと体の距離は同じくらいだったと自信を持って言えた。
そのうち、まばたきの回数が多くなった裕貴が言う。
「ねえ、ベッド行こうか」
僕は黙って、寝室のドアを開けた。
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