2.彼方の記憶

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アークは、親の顔を知らない。否、父親については、知ってはいるが、思い出そうとすると、体が震え、言いようのない恐怖と、吐き気が襲ってくるのだ。 生まれて間もない頃、母親は死に、それ以来、顔を合わせれば父親に暴力を受け続けた。挙げ句の果てには、父親は、アークを残して、どこかへ消えてしまった。アーク、16歳の誕生日。それはそれは大雨の日だった…。 びしょびしょに濡れ、泥だらけになった自分を見て、誰もが笑っている。アークは、涙が止まらなかった。 そんなアークに、誹謗中傷の眼差しを向けず、保護してくれた家族がいた。 マイの家族達だ。 アークは、マイの家族と共に、今までに味わったことの無いような、幸せな時間を過ごした。 しかし、そんな幸せが、永くは続かない。 大雨の日、どこからか迷い込んできた盗賊達が、マイの家を荒らして回った。しかし、金目の物がないと分かると、怒り狂った盗賊達は、アーク達を縛り上げ、抵抗できない父母を、刀で串刺しにした。そして、アーク達の目の前で、その体を解剖し始めた。 「臓器を売れば金になるだろ?」 などと言っていた。 そして、あらかたぐちゃぐちゃにし終えると、今度はマイを見て、 「若いメスは金になる。」 と言って、マイに薬を飲ませた。マイはぐったりとして動かなくなった。そして、盗賊達がアークを始末しようとした時、幸か不幸か、盗賊を追って兵士達がやってきた。俺とマイは、無事保護されたが、マイは、大樹の元に生える薬草を飲み続けなければ、すぐに死んでしまうと、医者に言われた。それさえ飲んでいれば、病弱ながら普通と変わらず生活できると言われたが…。 アークは、神を信じない。神様がいるなら、自分をこんなに不幸にはしないはずだ。 アークは人を信じない。あの時、誰も助けてくれなかった。そしてこれからも、誰も助けてはくれない。 アークは思った。強くなりたい。大切な人を護れるぐらい、強くなりたいと…。
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