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たった一人で歌う人魚は、唄の途中で苦しげに眉をひそめ、下唇を噛んだ。そして、その蒼色の瞳をゆっくりと閉じた…。閉じられた瞼からは、一筋の泪が止め処なく零れた…。
「…っ嗚呼…私はっ…」
紡がれた言葉は続かず、否…、続けられなかった…。
ーー…どうすれば…あなたと一緒に居られますか…?
バッシャアアンッ…
一際大きな水音がした。人魚は最後にそんな切ない想いを残し、冷たい海へ飛び込んだ。
奥に奥にと進む度に冷たさは増し、それとは別に、冷たく流れる泪を海の水で誤魔化す様に只ひたすら地中海を目指した。
初めっから行く宛てなどなく、只ひたすら進んで行った。
そんな中でも、人魚の頭には一人の人間の男の姿がちらほら見え隠れしていた。
今、彼女を悩ませ、泣かせている男ーー。
人魚の掟…
人魚と人間は相反する者同士。故に、恋心抱くでべからず。それは決して許されぬ…。
人魚と人間…。決して交わることなかれ……。
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