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掟ある限り、人魚は己の想いをひた隠しにしなければならない日々が続いた…。
変われるのなら、己の宿命を変えてしまいたい…ーーそう願えば願う程、彼女の瞳から溢れてくる泪は彼女を絶望の淵に立たせた。
「…っ…逢いたい…!あなたに…、逢いた…ぃ…っ…」
泪と共に流れる言の葉は、彼女がそう望んだ為、誰の耳にも届かない筈だった。
「誰に逢いたいんだい?」
返事はおろか、誰かの気配すらないと思っていた空間に、凛とした声が響いた。 その声は、決して大きくはないにしろ、一字一句聞き漏らす事がない程の声音に、彼女は息を呑んだ。
「ーーッ?!?!」
そんな彼女を気にも止めず、声の主は彼女に近付いた。
「ーー誰に逢いたいんだい?云っておしまいよ…。」
声の主を視界に入れ、人魚は元々大きく円らな瞳を更に見開いた。
「…ぁ…、…なたは…っ?」
やっとの事で絞り出した声は震えていた。
「うん?私か?私はこの先に在る洞窟に住む者…名をムゲンと云う。」
「…ム…ゲン…?」
人魚は、ムゲンと名乗る人物を上から下まで観察し、ムゲンの漆黒の瞳を見据えた。
ムゲンの風貌は、鼻筋の通ったきめ細かい肌で躰はほっそりとしていた。そして、腰まで伸ばされた漆黒の髪を緩く結いあげ、胸元は妖しく開いた躰のラインがくっきりとしたロングドレスを身に纏っていたーー。
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