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「…好きな人がいます…。その方は…私には許されぬ立場なのです……。」
「…と云いますと?」
「…っ…その御方は……“ 人間の男 ”です……。」
「っ?!…なんと…」
「…っ……」
すっかり驚愕してしまったムゲンに、人魚は瞳を伏せた。
ムゲンはあまりの事実に、 言葉を失うが、彼女の想いが偽りではなく本気だと、彼女のその震える躰で認めざるおえなかった。
「…逢いたいのです…。例え…人魚の掟に背いても…っ…!」
人魚の膝に置かれた握り拳が、彼女の決意の現れだと感じ、ムゲンは一呼吸おくと、彼女の肩に手を置いた。
「…逢うだけで宜しいのですか?」
「ーー…ぇ?」
ムゲンの問い掛けに、人魚は顔を上げた。 聞き返す人魚に、ムゲンは優しく笑いかけた。
「逢うだけで宜しいのですか?」
と、もう一度同じ問い掛けをすると、人魚は蒼色の瞳を揺らしたーー。
「…っ…、お傍に…居たい…ッ…、わた…し…、あの御方のお傍に居たいッ…!」
途端に大粒の泪を零した人魚に、ムゲンは困ったようなそれでいてどこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべた。
「…では、お逢いになれば宜しいのです。」
ムゲンの言葉に、人魚はただ首を横に降り続けた…。
「…何故です?…逢いたくはないのですか?」
ムゲンの質問に、人魚は顔を上げずに、小さく吐息した。
「…ぁぃ…たぃ…っ…」
か細い彼女の声は、うっかりしていたら聞き逃してしまいそうな程小さく、頼りなげだったが、ムゲンにはちゃんと聞こえていた。
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