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ムゲンは柔らかく笑うと、人魚の肩に手を置いた。
そしてーー…
「…陸に上がっても呼吸が出来るようにしてあげましょうか?」
と囁いた。
人魚はその言葉に、驚愕した。
「…ぇ?…ほんとに…?…ほんとにそんなことが…?」
「えぇ…、貴方が望なら…」
その言葉を聞き、人魚は瞳を輝かせた。
「是非っ!御願いですっ!!私を陸に上がらせて下さい!!」
人魚はムゲンの手を掴み、力強く頼み込んだ。
それを見て、ムゲンは大きく頷いた。
「…ですが…、」
途端に顔を曇らせるムゲンに、人魚は小首を傾げた。
「…?何か問題でも?」
するとムゲンは、少し言い辛そうに言葉を濁らせた。
「…あれはかなり…大事なモノなので…、私は願いを叶える代わりに大切なモノを頂きたいのです。」
ムゲンの言葉に、人魚は更に首を傾げた。
「代金…と云いましょうか…。私もあれを作るには相当な苦労を致しましたので…、そう易々と差し上げる事ができないのです……。」
ムゲンの説明に、人魚は暫し考えた。
「…大切なモノ…とは、なんです?私は貴方に何を支払えば宜しいのですか??」
「貴方が支払うモノは私が決めます。それでも宜しいのでしたら、貴方に差し上げますが…、如何します?」
再度訪ねるムゲンに、人魚は大きく頷いた。
「何でも差し上げます。どうか…私の願いを叶えて下さい。」
その言葉を待ちわびていたかのように、ムゲンは立ち上がり、人魚に一言声を掛けた。
「明晩…また此処でお逢いしましょう。」
そう告げると、ムゲンは人魚の返事も聞かず、その場をあとにした。
残された人魚は、願いが叶う嬉しさと、不思議な女性に遭遇した事でその胸を高鳴らせた。
“大切なモノ”
とは何か、深く考えることも出来ぬくらいにその胸を期待で躍らせ、海面へと向かったーー…。
♪嗚呼、愛しき貴方に一目逢いたく…
私は 胸を躍らせる
今宵も 美しき月を見上げ…
一人貴方を想う…♪
人魚の歌声には、既に以前ほどの寂しさも哀しげな色は見てとれなかった。
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