もう一度、さよなら

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  彼の目を見ていった。 心が痛む。 まだ、傷付いた顔を していたから。 もっと傷付いた顔を してしまったから。   大切な人を傷付けた。 嘘を言った。   それは本当に辛くて、 辛くて苦しい。 あたしには、涙を 堪えるだけで精一杯。   彼は、ゆっくりと 立ち上がりドアへと 向かう。   あたしは、彼に 背を向けた。 もう、裕樹の顔は 見れない。     涙が、流れた。     『裕樹、』   彼の名前を呼ぶ。 空気だけで彼の動きが 止まった事が分かった。   『裕樹、』   もう一度呼んだ。   ごめんなさい。 ごめんなさい。   あたしは、 あなたが好きです。 嘘を付いています。 あなたに気付いて欲しい。 でも、気付かれたくない。   そういう意味合いを込めて 彼の名前を呼んだんだ。   『……俺は、華林から離れるなんて出来ない。アイツを放って置くことは出来ないんだ。』
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