.

3/3
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
家の玄関で靴を脱いだ後、そのまま床に横たわった。よくわからないけれど ああ、と思った。 どこを見るでもなく天井を見ていると、桃子が僕を眺めていた。 「なにやってるの」 「別に」 桃子は膝を腕の中に抱えて、僕を見ている。 「ちゃんと供養してあげれた?」 僕はなにも答えなかった。代わりに「セックスしようか」と言うと「馬鹿なこと言ってないで早く寝るよ。明日も仕事なんだから」と返されて、僕はブサイクな顔で軽く笑った。 クローゼットからアコースティックギターを取り出して、ぽろんと弾いた。ぽろんと音がした。幾回も往復した指の感覚。 「まさか今から歌うなんて言わないよね」 僕が笑って息を吸うと、桃子はうんざりしたように布団にくるまってしまう。 慣れた歌を歌いながら僕はなんにも考えてはいなかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!