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家の玄関で靴を脱いだ後、そのまま床に横たわった。よくわからないけれど ああ、と思った。
どこを見るでもなく天井を見ていると、桃子が僕を眺めていた。
「なにやってるの」
「別に」
桃子は膝を腕の中に抱えて、僕を見ている。
「ちゃんと供養してあげれた?」
僕はなにも答えなかった。代わりに「セックスしようか」と言うと「馬鹿なこと言ってないで早く寝るよ。明日も仕事なんだから」と返されて、僕はブサイクな顔で軽く笑った。
クローゼットからアコースティックギターを取り出して、ぽろんと弾いた。ぽろんと音がした。幾回も往復した指の感覚。
「まさか今から歌うなんて言わないよね」
僕が笑って息を吸うと、桃子はうんざりしたように布団にくるまってしまう。
慣れた歌を歌いながら僕はなんにも考えてはいなかった。
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