幻覚

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幻覚

まだ春になる前の肌寒い日だった。 博雅は、目覚めた。 だが、寝起きが悪い。 「おい、晴明…?」 とりあえず、晴明の名を呼んでみた。 返事はない。 先程まで一緒に酒を飲んでいたのだが、気配がない。 「どうしたのだ?」 明かりは、ずいぶん前に消えたらしい… 辺りは、うっすらと闇に染まっていた。 仕方なく、博雅は手探りであたりを探った。 「ん?」 すると、探っていた手に何かが当たった。 近づくと、ザラザラ…したモノだ。 「うわっ、なっ…」 博雅は、それをなぞるように触っていた。 突然、なにかに引っ張られた。 「んっ…やめ…う…」 すると、今度はなにやら柔らかく、甘い香りがした。 しかも自分に口を重ねている。 女だと思う。 晴明の屋敷ならば妖かしを使っているはずだ。 なら密虫か、別のものか? 「あう…晴…明…」 何度も唇を吸う柔らかな唇に博雅は、赤面した顔で抵抗した。 息苦しさの中、博雅はの名を呼んでいた。
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