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桜はどういう訳か中々にご立腹のようだ。
月卿、つまりは領主の娘である雪と知り合いなんてずるいと、そういう意味のように聞こえる。
そういえば、以前のパレードの時、雪を見れてかなり喜んでいたし。
「たまたまだよ。それにこれからはお前もクラスメイトの一人なんだから、今さら言うことじゃないだろ?」
そこまで言ったところで、俺はどこか桜の様子が変わったかのように思えた。
具体的には、今までの怒りが、呆れに変わったとでも言うのだろうか。
「…………そう、だね」
桜はあからさまにため息を吐いた。
最後に一言、『もういいや』とぞんざいに言ってのけたかと思うと、う~んと思い切り背伸びをしている。
おそらく、話はもう終わりという意味なのだろう。
「私……もう帰るね」
「あ、ああ」
「雪さんも、さようなら」
雪はコクリと一つ無言で頷くだけだ。
雪さん、という呼び方は本人がそう呼んでくれ、と紹介されたときの挨拶のついでに言っていたからだろう。
どこかおかしい。
俺はそう思い立ち上がると、桜が駆けるようにして去っていく様子を廊下に出て見送った。
一緒に帰っても良かったのだが。
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