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雪は我関せずとばかりに既に立ち上がって、自分の鞄と何故か俺の鞄を持っている。
ついでに言えば、こちらをジッと見て、目で何かしら訴えているようだ。
言いたいことは分かる。つまりは『一緒に帰ろう』ということなんだろう?
ハァ、と呆れ気味に嘆息する。
「帰ろうか」
雪はコクリと頷いた。
「鞄、ありがとな」
俺は雪に右腕を伸ばす。
すると雪は何を勘違いしたのだろうか。鞄を渡すと同時に、俺の腕を左腕で掴んでツカツカと歩き出す。
「な、なんだよ。なんか急いでるのか?」
構図としては女子に腕を組まれて一緒に歩いている形だ。
若干焦る。
「……べつに」
「なら、何でこんなに速く歩いているんだよ」
「早く家に帰りたいだけ」
「それを急いでいるっていうんだよ! とにかく──手を離せ。歩くペースは合わせてやるから」
落ち着かないだろ。
腕を引っ張られて前傾姿勢になっているが、そのまま訴える。
すると雪はピタッと足を止め、掴んでいた手をぞんざいに離したかと思うと、また何事もないかのように歩き出した。
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