第一章 放課後(The Boy and The Girl)

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 学校から雪の住む《月宮》、つまり領主の屋敷にまでまともに歩いて行こうとすれば、軽く見積もって二時間以上。ましてや雪のように小さな少女が、一人ぼんやりと帰るなら三時間では済まないのではないだろうか。  日のある内に帰れるとは到底思えない。  月卿様の娘が帰りに車一つ使わないなんて、流石に心配だな。 「仕方ない。送ってやるよ」  隣の少女に提案する。  しかし少女は首だけこちらに動かすと、咎めるかのような視線を向けてくる。 「仕方ない……?」  どうやらお気に召さない言葉があったようだ。それが一体何なのかは、今更考える必要もないだろうが。 「……私を守る、と言った」  雪がこちらを思いきり睨んできて、ちょっとたじろぐ。 「私を逃がす、とも言った」 「それが今の発言とどんな関係が!?」 「俺がずっとそばにいる、とも言った」 「言ってねえ!」  どさくさに紛れて捏造すんな! 「じゃあ……」 「じゃあってなんだよ! 一体何が言いたいんだお前は!」  うむ。ようやくエンジンがかかってきた。  今日一日、大したボケもツッコミもなく終わるんじゃないかと思っていた。
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