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学校から雪の住む《月宮》、つまり領主の屋敷にまでまともに歩いて行こうとすれば、軽く見積もって二時間以上。ましてや雪のように小さな少女が、一人ぼんやりと帰るなら三時間では済まないのではないだろうか。
日のある内に帰れるとは到底思えない。
月卿様の娘が帰りに車一つ使わないなんて、流石に心配だな。
「仕方ない。送ってやるよ」
隣の少女に提案する。
しかし少女は首だけこちらに動かすと、咎めるかのような視線を向けてくる。
「仕方ない……?」
どうやらお気に召さない言葉があったようだ。それが一体何なのかは、今更考える必要もないだろうが。
「……私を守る、と言った」
雪がこちらを思いきり睨んできて、ちょっとたじろぐ。
「私を逃がす、とも言った」
「それが今の発言とどんな関係が!?」
「俺がずっとそばにいる、とも言った」
「言ってねえ!」
どさくさに紛れて捏造すんな!
「じゃあ……」
「じゃあってなんだよ! 一体何が言いたいんだお前は!」
うむ。ようやくエンジンがかかってきた。
今日一日、大したボケもツッコミもなく終わるんじゃないかと思っていた。
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