第一章 放課後(The Boy and The Girl)

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 俺の言葉に一度立ち止まりはしたものの、知ったことかとばかりにまた歩き出した。 「そっちじゃないって言ってるのに……」  そっちは俺の家がある方向なんだが。  その後も何度か注進してみるが、雪はそのたびに足を止めて、何かを推考するかのように上を向く。  しかし、十秒も経たないうちにまた一人勝手に歩いていく。  しまいには俺の言葉など戯言とでも言うかのように聞く耳を持たない。  正面を見据えて黙々と自らの両足を動かすに終始している。  ひょっとして、近道でも知っているのか。それとも、最寄りの駅にでも向かっているのだろうか。  口数の少ない雪は、言葉よりも自分の行動で意志を示すことが多い。今回もその類かもしれない。  《月宮》はこいつの家だ。  ならば家路は本人が一番詳しいはずだ。ならその判断に任せても大丈夫だろう。  いつもいつもツッコミや文句ばかり言っている訳にはいかないしな。  雪の行動を、尊重しよう。  俺は昨日よりも、一つ大人の心を手に入れた。
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