第一章 其の二 三人(at Home)

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 俺はマンションの屋上に寝そべっていた。  三人とも風呂に入ったはいいが、どうにも気まずくなってそそくさと退散してしまったのだ。  我ながら情けない。  時刻は既に午後十一時を過ぎている。  春ももう終わるという五月だが、夜は意外と寒い。一応湯冷めしないようにと寝間着の上にもう一枚羽織ってはいるものの、かれこれ一時間近く横になっているため、体の地面に接している部分からガンガン熱を奪われる。  でも、まだ時間がある。  俺はここに星を見に来たわけではない。  もちろん、今眼前には無数の星々が輝いてはいるが。しかしこの星空は本物ではない。  月面に建てられた巨大なドームの一つ《シティ7》の天井の内側に映し出された映像なのだ。  まがい物、偽物、贋物。  呼び方は色々あるだろうが、俺には興味がなかった。  ならばなぜここにいるのか。所在無い家から逃げてきた、ということもあるが、それだけではない。  このドームの天井、《羽》は日に一度夜中の数時間だけ開かれるのだ。節電が主な理由らしいが、詳しいことは分からない。  だがとにかく、俺はその開いた後の景色に用がある。
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