第一章 其の二 三人(at Home)

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「…………なあ」  俺の方から話しかけてみる。 「……なに」  一拍置いて返事が返ってきた。 「お前、なんか夢ってあるか?」 「……モラトリアム?」 「ちげーよ。なんて言うか、あるだろ? 一度でいいからやってみたいことぐらい」  俺は座り込んだまま話す。 「…………あなたは?」  答えないのかよ。 「俺は、一度でいいから…………あそこに行ってみたい」  あの青い星を指差した。 「地球に……」  雪は俺の言葉に驚きも呆れもしなかった。ただ反応した、という感じだ。 「……どうして?」 「そりゃ……ここは狭いだろ? 空も街も」  一日でこの時だけに見られる、本当の空から目を逸らさずに言った。 「人はせっかく宇宙に上がったのに、地球にいたときよりも狭苦しい、窮屈な生き方をしてる。地球との連絡もほとんど取らず、隣の《シティ》に行くこともない」  行けなくはない。ただ、そんな人がほとんどいない。  つまりは排他的なのだ。  月の人々が新たな環境に適応するために、お互い結束しなくてはいけなかった。それは分かる。
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