第二章 始まり(Like a Love Comedy)

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「拓海、相手を寝転がせたらお着替えはできないわよー」  いいタイミングで余計なことを言う。 「きがえ……?」  完全にジト目でこちらを睨む。 「いやいやいや! お前が俺に寝ぼけて言ってきたんだぞ!」 「そんなことはあるはずない。たとえ死んでも私があなたに着替えなんて頼むはずがない」  平坦な口調だが、纏っている雰囲気は決して穏やかなものには感じられない。 「いや確かに正確には俺が頼まれたわけじゃないけども!」 「そもそも、あなたは頼まれたからといって異性の着替えを手伝うの」 「しないしない! するわけねえだろ!!」  だが雪は自分の胸元をチラッと見る。 「ボタンが外れてる」 「それは最初からだ! 俺はお前が寝ぼけてそうだったから起こそうとしてだな……」 「それで押し倒したの」 「これは姉さんのしわざだ! 不幸な事故だ!」  と、そこまで弁解したところでようやく雪は口を閉じる。正確には、姉さん、という単語を耳にしたからだろう。  当の本人は「起こそうとして押し倒す……アハハハ!」と一人勝手に爆笑していた。  どうやら変なツボに入ったようだ。
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