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薄暗い室。 厖大な空間の床はただただ赤黒い絨毯が敷き詰められ。 見上げる遥か先の天井は琥珀にてらてらと滑りの帯びた反射を示し。 視界を遮って林立する漆黒の本棚が複雑に幾何学的に空間を裁断し。 それでも尚、納まり切らない蔵書がパッチワークを入り組ませる。 そんな、出口すら見つかる事のない空間の主は、この室唯一の机に鎮座して奇妙な客を見ていた。 奇妙な、というのには理由が2つ。ひとつは他の客とは違う、行動の方向性。 この室には出入口こそ無いが、外部からの客の流入は意外に多い。 それらは自身との会話の有無こそあれ、皆一様に蔵書に目を輝かせ、ややあって廃人の様になり、やがて消え入るように事切れる。 死骸は悪臭さえ漂わせる事無く朽ち果て、灰燼の如く溶け去る。 しかし件の客は蔵書に目を奪われる事無く、更には此処と何処かの出入りさえ自在ときている。 そんな離れ業を可能とするもうひとつは、存在。 赤髪に赤目の黒衣の魔女の姿で現れる事の多いそれ。 彼女は、影である。
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