7人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「私はエルゲルニス。旅の学生です」
「エルゲルニス?」
つい、声に出してしまう。
“エルゲルニス”とは“躓き”を意味する言葉だ。
そんな言葉を名前にするだろうか?
いや、そんな事より──
「なんです?」
少年が、怪訝な顔をしてこちらを見上げてくる。
「いや……変わった名前だ」
「よく言われる」
男は、口の端を歪めて笑った。
「はあ……?ええっと、ぼくは……」
曖昧に首を傾げ、少年が自己紹介を始める。
私は、男に視線をやった。
“躓き”だと?
明らかに偽名だ。
しかも、その言葉は──
その言葉は、私の……
「──で、こちらがキルケゴールさん。教会の祭司様です」
放っておくと、少年は続けて私の紹介までしてしまった。
いや、待て。なんで自己紹介なんてするんだ。
思考に夢中になって、現実の進行から目を反らしていた事を後悔する。
なんだってこいつは、こうも警戒心が無いのだ。“エルゲルニス”なんて名前は怪しいとは思わないのか?明らかに偽名じゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!