十字路の墓

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「私はエルゲルニス。旅の学生です」 「エルゲルニス?」 つい、声に出してしまう。 “エルゲルニス”とは“躓き”を意味する言葉だ。 そんな言葉を名前にするだろうか? いや、そんな事より── 「なんです?」 少年が、怪訝な顔をしてこちらを見上げてくる。 「いや……変わった名前だ」 「よく言われる」 男は、口の端を歪めて笑った。 「はあ……?ええっと、ぼくは……」 曖昧に首を傾げ、少年が自己紹介を始める。 私は、男に視線をやった。 “躓き”だと? 明らかに偽名だ。 しかも、その言葉は── その言葉は、私の…… 「──で、こちらがキルケゴールさん。教会の祭司様です」 放っておくと、少年は続けて私の紹介までしてしまった。 いや、待て。なんで自己紹介なんてするんだ。 思考に夢中になって、現実の進行から目を反らしていた事を後悔する。 なんだってこいつは、こうも警戒心が無いのだ。“エルゲルニス”なんて名前は怪しいとは思わないのか?明らかに偽名じゃないか。
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