十字路の墓

2/19
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
雲が流れていく。 雪の季節にはまだ早いが、風は身を切る冷たさだ。 吐く息が、白く帯を引いた。 見上げた空は灰色で、風は既に湿りをおびている。 雨が降らなければ良いのだが。 背後からは、ざくざくと土を掘る音が聞こえてくる。 四人の男達が、穴を掘っているのだ。 彼等が掘っているのは墓穴だ。 と言っても、ここは墓地ではない。村外れの十字路である。 踏み固められた土は大層固く、棺を埋める穴を掘る事は容易ではない。 風の吹き抜ける十字路に立って、私は大きく息をついた。 十字路の傍らには、粗末な棺が置かれている。 この棺の主がこの様な場所に葬られなければならないのは、彼女が自殺者だからだ。 自殺者は教会の墓地には入れられない。それが決まりだった。 「キルケゴールさん。終わりましたよ」 しばらくして、作業を終えたらしい男がそう声をかけてきた。 しかし、私は聞こえないふりをした。 私は、「キルケゴール」と呼ばれる事が嫌なのだ。だから、そう呼ばないで欲しいと常日頃から言っているのに、誰も従おうとはしない。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!