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雲が流れていく。
雪の季節にはまだ早いが、風は身を切る冷たさだ。
吐く息が、白く帯を引いた。
見上げた空は灰色で、風は既に湿りをおびている。
雨が降らなければ良いのだが。
背後からは、ざくざくと土を掘る音が聞こえてくる。
四人の男達が、穴を掘っているのだ。
彼等が掘っているのは墓穴だ。
と言っても、ここは墓地ではない。村外れの十字路である。
踏み固められた土は大層固く、棺を埋める穴を掘る事は容易ではない。
風の吹き抜ける十字路に立って、私は大きく息をついた。
十字路の傍らには、粗末な棺が置かれている。
この棺の主がこの様な場所に葬られなければならないのは、彼女が自殺者だからだ。
自殺者は教会の墓地には入れられない。それが決まりだった。
「キルケゴールさん。終わりましたよ」
しばらくして、作業を終えたらしい男がそう声をかけてきた。
しかし、私は聞こえないふりをした。
私は、「キルケゴール」と呼ばれる事が嫌なのだ。だから、そう呼ばないで欲しいと常日頃から言っているのに、誰も従おうとはしない。
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