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「キルケゴールさん」
足音が近付いてきて、肩を叩かれた。
仕方なく振り返る。
「終わりました」
「……分かりました」
墓穴に近付くと、掘られた穴の底には、既に棺が下ろされていた。
しかし、
「……少し、浅いのではありませんか?」
「え?」
「墓穴です。もう少し、深く掘った方が良いのでは?」
男達は心底嫌そうな顔をした。
「勘弁してくださいよ。土が固すぎる。これ以上は掘れませんよ」
『掘れません』ではなく、『掘りたくありません』だろう。
そう思ったが、黙っていた。
「これ位で十分ですよ」
「そうそう」
「それに、さっさと済ませちまわないと、雨が降りますぜ」
「そうですよ。さあ、早くお祈りの言葉を」
男達が口々にそう言いながら浮かべる、へつらうような薄ら笑いに、私は嫌悪感を抱いた。
目をそらすようにして、墓穴に向き直った。
「分かりました。では、始めましょう」
寒空の下、参列者のいない葬儀は始まった。
彼女には、家族も親戚も、親しい友人も居なかったのだ。それに、村人との付き合いも殆んど無かった。
村の外れにある小屋で一人で暮らし、孤独に死んだのだ。
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