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「よろしく、お願いします」
棺を埋めろという意味だ。
そして、男達の厳粛ぶった顔から目をそらした。
彼等に背を向け、空を見上げる。
雲が流れていく。
灰色はさらに暗くなり、風の湿りはさらに増している。
もうすぐ雨が降るだろう。
やがて、墓はすっかり埋められ、踏み固められ、誰も死者を悼む者のいない葬儀は終わった。
そこには墓碑すらない。
ただの十字路だ。
「ご苦労さまです。行きましょう」
私は、できるだけ素っ気なくそう言って、返事を聞かぬまま歩き出した。
彼等とは、口を利きたく無かった。
一人で歩きながら、思う。
クリステンセンは、何故自殺などしたのだろう?
彼女は70を過ぎた老人で、他人との付き合いも無かった。
そんな人が死にたいと思う程の悩みとは、一体何なのだろうか。
或いは、村人と付き合いが無かった事こそが原因なのだろうか?
分からない。
いずれにせよ、彼女は死んでしまった。
死んでしまっては、悩みも何もない。
しかし、どうなのだろう?
死んだ後も、悩みは続くものなのだろうか。
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