十字路の墓

5/19

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「よろしく、お願いします」 棺を埋めろという意味だ。 そして、男達の厳粛ぶった顔から目をそらした。 彼等に背を向け、空を見上げる。 雲が流れていく。 灰色はさらに暗くなり、風の湿りはさらに増している。 もうすぐ雨が降るだろう。 やがて、墓はすっかり埋められ、踏み固められ、誰も死者を悼む者のいない葬儀は終わった。 そこには墓碑すらない。 ただの十字路だ。 「ご苦労さまです。行きましょう」 私は、できるだけ素っ気なくそう言って、返事を聞かぬまま歩き出した。 彼等とは、口を利きたく無かった。 一人で歩きながら、思う。 クリステンセンは、何故自殺などしたのだろう? 彼女は70を過ぎた老人で、他人との付き合いも無かった。 そんな人が死にたいと思う程の悩みとは、一体何なのだろうか。 或いは、村人と付き合いが無かった事こそが原因なのだろうか? 分からない。 いずれにせよ、彼女は死んでしまった。 死んでしまっては、悩みも何もない。 しかし、どうなのだろう? 死んだ後も、悩みは続くものなのだろうか。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加