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「ったく…やってられねえな」
夏の夜の街を、1人の男が、愚痴を呟きながら歩いていた。
男の名前は香山哲郎(かやまてつろう)
会社で営業の仕事をしている。
営業といっても、外回りはせずに、電話帳を片手に、片っ端から電話して、自社製品である空気清浄機を薦める、いわゆる電話営業だ。
当然ノルマがあり、達成できなければ上司である口場課長(くちば)に、こってりと絞られることになる。
課長には怒鳴られ、電話先には煙たがれる。
大体、この不況の中、空気清浄機などが、そうそう売れるわけがない。
空気清浄機が無くても、生きていくのに不自由はしない。優先順位が元々下の方にあるのだから、なおさら売れない。
こういう状況を理解して、少しは大目にみてほしいものだ、と香山は思う。
もっとも、そんなことを言おうものなら、課長の口場に「製品に愛情を持っているのか? 愛情が無いから売れないんだ!」などと、理解し難い理屈を言われるのがおちだ。
今日だって課長に怒鳴られたし、昨日も…。
それゆえの「やってられねえな」なのである。
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