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どうにか、この壁を越える事が出来ないか。
どうにか、この壁が破れないか……。
壁に突き立てた指に爪はない。全て割れ、剥がれていた。
赤黒い体液に塗れた、細い腕。痩せこけた体は、骨も血管も浮き出ている。満足な食事も水も与えられず、カサカサになった肌に、幾つもの新しい傷と、古い傷痕が走る。
痩せこけ、傷だらけで、表情もないその顔は、それでも美しかった。
真っ白な長い髪。白く細い眉。どこを見ているのか解らない虚ろな、金色の大きな瞳。スッと高いだろう鼻は、今は折れて曲がっている。形の良い薄い唇も、口角が裂けて痛々しい。
少年は爪の無くなった指でガリガリと壁を引っ掻く。
冷たいコンクリートの壁は肉を削ぎ、鮮血を吸い取る。
壁は赤黒く染まっている。
助けを求め、赦しを請い、苦しみに喘ぎ、壁を引っ掻いていた。
一体いつからこの部屋にいるのか、少年は解らない。
冷たいコンクリートに囲まれ、ベッドが一つだけあるこの部屋に、一体どれほどの時間、閉じ込められているのか、もう解らなかった。知りたいと思わなかった。
お願い誰か……。
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