退屈

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 その椅子は、以前ラークが座っていた椅子だった。  今、ラークが座っている椅子は、かつてガルクの隣にいた人物が座っていた。    その人はガルクに似ていた。  名前はフェイク。第一王位継承者であるガルクを護る為、幼い頃から教育された。  『偽物』と言う名前も、彼は誇りに思っていた。  ラークがここに来て半年後、その事件は起きた。  ラークは街の中で錯乱し、暴れた。復讐に囚われたその錯乱は、殺意を伴っていたため、ガルクとフェイクが何とか押さえ込んでいた。だが、一瞬の隙をつかれ、ラークは二人の制止を振り切って逃げた。幸いにも、既にラークは男を見失い、ただ錯乱して逃走しただけだった。  そこから先の記憶は途切れ途切れで、次に覚えているのは街から少し離れたところにある、森の中だった。  血に濡れ、滑るナイフをラークはガタガタ震えながら両手で握っていた。少し離れたところに、切り傷と刺し傷だらけのフェイクがいた。  瞬きした後ーー次の記憶では、彼は倒れていた。  致命傷を負ったフェイクは、ラークの手を強く握り、言った。   『ラーク、クウォールを護ってくれ』   『約束してくれ』
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