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「あいつ、政人のこと……お願いします」
急にかしこまった様子でそう告げる瑞希の瞳はわずかに斜め下に向けられていて、どこか儚さを孕んでいた。
まるで夢を語るようなその仕草に見惚れた。
年端も行かない少年のような容姿に反するようにその瞳だけは色気を含んでいるようだった。
空気を変えるように瑞希は声色を変えると、少し無理をしたような笑いを込めて声音を上げた。
「あいつ、不器用で、口悪くて、性格もあんなだけど、俺はあいつに……その、幸せに、なってもらいたいから」
変なこと言ってごめんなさい、と急に謝られてこっちが戸惑ってしまう。
まるで母親のような、そんな立場からの言葉はどこか心配というより懇願に似ていた。
大人びた発言に首を傾ける。
何が言いたいのだろう……。
「政人の幸せを叶えてやることはオレには出来ないんだ。オレには、恋人がいるから」
それってどういう意味?
……聞けるわけがない。
あたしは自分で言うのもなんだけど、バカではない。
察しはいい方だと自負している。
だから、余計な口は聞かないに限る。
口を開けば、問いただすようなことしか言えないだろうから。
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