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初夏の風が、頬をすり抜ける。
玖郎は、昼間の京の街を歩いていた。
『あー…やっぱりまたこの夢だ』
九郎は、予想していた通りの展開に半ば諦めていた。
しかし、今回の夢はいつもと違っていた。
昼間なのだ。
今まで見てきた玖郎の夢は、ほとんどが夜であり、明るい時間帯での夢など見たことがなかった。
とにかく、玖郎はどこかに向かっているようである。
京の街から、外れたところにある林を抜けると、古い小屋があった。
屋根の、部分にある煙突が煙を吹き、中から金属音が、一定の間隔で聞こえてくる。
『ここは……そうだ……鍛冶屋だ』
九郎は、なぜか玖郎の記憶を、共有化することが出来ていた。
『うん……あの人に逢いに来たんだ』
玖郎が、鍛冶屋の戸を開けると、中には1人の女性が、一心不乱に刀を打っていた。
年の頃は、17、8程。
絹のような長くて艶やかな髪をまとめ上げ、透けるような白い肌は煤で汚れている。
「雪……」
玖郎が、その女性の名前を呼ぶと、女性も玖郎に気が付き、満面の笑顔で、玖郎を出迎える。
「玖郎様……!!」
名前を呼ぶと、雪は玖郎に抱きつき頭を、玖郎の胸にうずめる。
「お会いできて、雪は嬉しゅうございます……!」
玖郎も、普段の冷徹な顔からは一転、優しく微笑んでいる。
「俺もだよ、雪……」
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