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雪は、玖郎の“鞘”だった。
悪人から弱き人々を守るという名目で、《幕府警察機構:新選組》の暗殺部隊、零番隊に配属され、来る日も来る日も、人を殺め続け、自分の信念や理想も忘れて、ただ無心に人を斬り続けてきた。
彼に、つけられたあだ名は『人斬り玖郎』。
そんな修羅に墜ちる寸前の玖郎を救ったのがこの鍛冶屋の主人、雅宗 雪(まさむね ゆき)だった。
彼女の涙が、そして笑顔が、玖郎に大切なものを教えてくれた。
彼女のおかげで今の玖郎があり、玖郎の《弱き人々を守るための剣》がある。
雪を守るためならば、たとえこの命尽きようとも構わないさえ思っている。
それぐらいの覚悟があり、同時に雪を愛している。
雪と過ごすこの時間は、とても心が落ち着く。
1853年、浦賀湾に世界最大の軍事国家、アメリカが戦艦黒船で来航し、開国を要求したが、幕府はこれを断固拒否。
欧米諸国との緊張が高まる中、幕府は外国との交渉に奮戦する一方で、開国すべし!幕府を倒せと、国内でもテロや犯罪が横行し、この国は荒れに荒れた。
国が荒れれば人の心も荒れる。
強盗に親を殺され孤児となり、ずっと独りきりで生きてきた玖郎は、何度も命の危険に見舞われた。やがて、護身のため我流で編み出した剣術とその腕を買われ、かつての自分のような子供を出さないためにと新選組に入隊したが、そこでは《暗殺者》として、血の雨を降らす日々……。
心の安まる日などなかった。
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