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「それでは今日は、ずっと一緒にいられるのですか?」
いつの間にか機嫌を直した雪は、笑顔で玖郎に聞いた。
「いや……夜はまた仕事が入っているから、一緒にいられるのは夕方までだな……」
『仕事』という言葉を聞いて、さっきまで笑顔だった雪の顔が曇らせ俯いてしまう。
「『仕事』とはまた……人を斬るのですか……?」
小さな声で、玖郎に問いかける。
「雪。お前が刀で人を殺すことに嫌悪感を抱いているのはわかっている。だがこれもこの街を守るためなんだ……。わかってくれ……」
鍛冶師の雪は、刀を人殺しの道具に使うことを極端に嫌う。
それは刀を愛してるが故の想いだった。
玖郎が雪に出会ったのも、自分の刀を雪に修理を依頼し、そのボロボロな刀を見て、思わず玖郎を殴ったことからだ。
「そうではありませぬっ!」
「雪……」
いつもの雪からは想像できない、大きな声で玖郎の言葉を遮る。
「そうではありませぬ……確かに私(わたくし)は、刀を人殺しの道具に使われることは好みませぬ……。けれども玖郎様は身を粉にし、命を張って、この街を守る為に剣を振るっていることは、私も重々承知しております。ただ……」
そこまで言って、玖郎の顔を見上げ、瞳を潤ませ切ない声で、呟く。
「最近は、攘夷活動も活発化し、多くの方々が犠牲にあわれていると聞き及んでおります。もし玖郎様の身になにかあったら、私は……私は……」
と、その綺麗な瞳から涙を流し、なにかを懇願する表情で、玖郎の顔を見つめる。
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