壊された『普通』

5/7
前へ
/53ページ
次へ
―― 逃げなきゃ!  愛流は反射的に駆け出そうとした。だが、彼女は動けなかった。  全方位から響く振動、銃声、悲鳴。  一体、どこに逃げればいいのか、と。  そんな彼女の視線に飛び込んでくるのは、銃を持った者の姿であった。  見ただけで誰もが戦慄を覚える、その血走った瞳。  瞬間、彼女はそれに背を向け、力の限り駆け出した!  だが、同じような瞳を持った者が銃を持って前方から迫り来る! 「うそっ!」  考えている暇は無い!  咄嗟に愛流は路地裏に入る!  大抵の人はそこで更に逃げることを考えるだろう。  だが、愛流は違った。 ―― こうなったら、もう『ダメモト』ね  『駄目で元々』、略して『ダメモト』!  愛流が信じてやまない言葉である。彼女が何かに対して諦め掛けたとき、常にその言葉を唱え、その危機を乗り切ってきた。  そう、愛流は確かに今、逃げ切ることを諦め掛けていた!  それならば、逆に迫り来る敵を倒して逃げる事を選ぼうとしていた!  確かに『無謀』!  だが、明らかに戦わずして逃げ切ることは叶わないのだ!
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加