1章<忘れらるる記憶>

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「この子・・・・未来・・・そう」 記憶の中でこだまする、男の声 「あ・・・うま・・・・てくれ・・・よか・・・・そし・・・ご・・・さい・・・。」 もう二度と、聞くことのできない、母親・・・の、声 目が覚めると、目の前にはまっ白い壁。いや、天井か。 長い・・・長い夢を見ていたような気がする。 砂の混じった風に、カーテンがゆられている。 窓辺には、白い光がたゆたって、 俺の体は、砂だらけだ。 砂を払いながら、ベッドを下りる。 起きたばかりで多少浮ついている感覚がするが、問題はないだろう。 不幸なことに、ここにはシャワールームなんてたいそうなものはなかった。 洗面台に立って、くすんだ鏡をのぞき、そしてその時、初めて気づく。 僕は・・・誰だ!? 言いようのない焦燥感。 必死に思い出してみようとしても、記憶の中は、まるで闇。 なんのつかみどころもないまま彷徨っていく。 額に滲む汗。早くなる動悸。 開け放した扉から、ひときわ強い風が吹く。 微かに懐かしい、匂いがした。 記憶がフラッシュバックする。 白衣の男、不安げな人々、幼子の俺。 そして、俺の名が呼ばれた。
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