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「レナス・・・セム・・・。俺の名前・・・。」
一抹の不安は抱えたままではあったが、名前を思い出せたことで、まるで存在が安定したとでも言うかのように、汗や動悸は収まった。
外へ出ると、どこまでも荒涼とした地平が続き、
遠い、地平線の向こうに、でかい山が見えた。
一体ここはどこなのか・・・。
あてがないとはいえ、いつまでもこの無人の診療所か病院みたいなところにいても仕方がない。
僕は、あてもなく歩き始めた。
不安という闇の中を、手さぐりで、
希望と言う、たった一本の糸を手繰り寄せるために。
どこまでも突き抜けるように青い空。
その下を、まっ白な雲が優雅に浮いている。
俺は、天を仰ぎながら、浮ついた気持ちのままさまよい続ける。
ただ、砂と風が通り抜ける音だけが鳴り響く。
俺は、一人か・・・。
その時、視界の端で何かが動いた。
無意識の内に視線が動く。
枯れ果てた雑草の下で、うずくまっている何か。
近寄ってみると、それは、小さな猫の様な生き物だった。
“そいつ”はもう視線も虚ろで、
鳴くこともなく、時折見せる痙攣が、衰弱の程度をあらわしているようだった。
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