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何故、そんな気持ちになったのかは、わからない。
ただ、気がつくと俺は、しゃがんで、“そいつ”を抱きかかえて、水をくれてやっていた・・・。
上着の内側で、震えるそいつを抱えたまま、近くに合った木にもたれて一晩過ごした。
死ぬな・・・俺を一人に、しないでくれと思いながら。
目が覚めると、上着にいるはずの“そいつ”がいなくなっていた。
元気になったのか、母親が迎えにでも来たか、それはわからなかったが、
とにかく、死ななかったのなら、良いかと思った。
それは、多分・・・孤独を紛らわすための思考。
この広い世界でたった一人だけのような気がした。
すべてにやる気が無くなって、
そう、このまま死んでしまってもいいと思った。
じりじりと照りつける太陽に、焼かれながら。
しばらくすると、遠くの方から、小さな足音が聞こえてきた。
それは、“そいつ”だった。
「お前・・・。」
思わず口走った俺の目の前に、一匹の鼠が差し出された。
「お前・・・俺にとってきてくれたのか・・・?・・・ははっ」
なんだか可笑しくて、
同時に、すごくうれしかった。
俺は“そいつ”を抱きかかえて、名前を付けてやることにした。
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