1章<忘れらるる記憶>

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何故、そんな気持ちになったのかは、わからない。 ただ、気がつくと俺は、しゃがんで、“そいつ”を抱きかかえて、水をくれてやっていた・・・。 上着の内側で、震えるそいつを抱えたまま、近くに合った木にもたれて一晩過ごした。 死ぬな・・・俺を一人に、しないでくれと思いながら。 目が覚めると、上着にいるはずの“そいつ”がいなくなっていた。 元気になったのか、母親が迎えにでも来たか、それはわからなかったが、 とにかく、死ななかったのなら、良いかと思った。 それは、多分・・・孤独を紛らわすための思考。 この広い世界でたった一人だけのような気がした。 すべてにやる気が無くなって、 そう、このまま死んでしまってもいいと思った。 じりじりと照りつける太陽に、焼かれながら。 しばらくすると、遠くの方から、小さな足音が聞こえてきた。 それは、“そいつ”だった。 「お前・・・。」 思わず口走った俺の目の前に、一匹の鼠が差し出された。 「お前・・・俺にとってきてくれたのか・・・?・・・ははっ」 なんだか可笑しくて、 同時に、すごくうれしかった。 俺は“そいつ”を抱きかかえて、名前を付けてやることにした。
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