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彼女はショートパンツが汚れるのも厭わずに、その場に腰を下ろした。
膝と膝の間に左手を置いて身体を支え、しなやかな指は目の前のそれをつまみ上げる。
目が痛くなるほど鮮やかな色。
目が回るほど奇抜な柄。
毒々しい虹彩を持つ彼女は、それをひたと見詰めた。
蝶のようだ、と彼は思う。
何が、と自問して、愚問だ、と結論付ける。
彼女は余程、そのきらびやかなドレスが気に入ったらしく、足元に転がる人形から身ぐるみを剥いでいるところだった。
ふう、溜め息。
無駄だと分かっているけれど、言わずにはいられない。
「……無闇に落ちているものを拾ってはいけないよ。いつも言っ、」
千切れた人形の手首が飛んできた。
断面からはよくわからないコードが伸び、白い腕の部分には数字とバーコード。
分解して、レアメタルだけを売れば高値が付くかもしれない。
機械人形をばらしている彼女は、ドレスを握り締めてこちらを睨んでいる。
反抗期の娘を持ったような気分だ。と暢気に考える。
結局折れてしまう自分が情けなくなる。
それでも。
「……次の街に着くまでだ。次の街で、そのドレスとレアメタルを高く売るよ。いいね、キリコ」
「うん」
ありがとう、と嬉しそうに微笑う。
ああ、やはり蝶のようだ。
そう思う男の姿を、光を喪った人形の目が捉えていた。
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