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病院の待合室はいつものようにひっそりとしていた。
「あ、磯野さんの息子さん…」
カツオが手土産を持って古びたナースステーションを覗くといつも見慣れた若い看護師がカツオに気付き笑顔を見せた。
「いつもお世話になってます、今日の父はどうでしたか?」
「お父さん今日はご機嫌でしたよ!レクレーション室で紙芝居もご覧になられましたし…」
「そうですか…これつまらない物ですが看護師の皆さんで。」
カツオが手土産を差し出すと若い看護師は遠慮がちにそれを受け取った。カツオは病棟の長い廊下をカツカツと歩き一番奥にある【磯野波平】と書かれたプレートの前に立った。
「フゥ~……」
カツオはネクタイを緩めゆっくり病室の扉を開いた。
「父さん?起きてる?」
淡いグリーンのカーテンを開くとそこにはカツオの父、磯野波平がベッドに横たわっていた。
「…父さん?」
波平はただじっと天井を見ていた。
「ワカメか?」
「違う、カツオだよ?」
波平の顔が一気に曇った。
「けッ…ろくでなしの放蕩息子のほうか!」
「………」
カツオはただ黙って横にあった丸い椅子に腰掛けた。
「こんの磯野家の恥知らずがッ、よくものこのことワシの前に来れたもんだなッ!」
「だよね…ゴメンね父さん。」
カツオは逆らう事なくただ父の罵声に応えた。
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