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カツオの父磯野波平は5年前、会社帰りの電車の中、未曾有の脳溢血で倒れた。
幸い命に別状はなかったものの頭に重度の脳障害が残ってしまい同時に軽い痴呆も併発してしまった。そして病院を転々とした後今は甥のノリスケの紹介で実家近くの小さな脳内科病院での生活を余儀なくされていた。
「ホントお前はどうしようもない奴だッ、少しはワカメの爪の垢でも煎じて飲むがいいッ、ろくに勉強もせず遊んでばかりおって!」
波平は面会人がカツオだと解るや否や驚く程流暢に昔話を話し出す。
「そうだね…僕は父さんの期待に応えられなかったろくでなしだよ。」
カツオは父親の病状がこれ以上悪化しないようにと波平の罵声を全て暖かく受け止めていた…
痴呆があるとはいえ父親の自分に対する嘆き哀しみをカツオは真摯に吸収していた。
(父さんの言う事は間違ってはいないんだ、僕は父さんの言う通り何の取り柄もない凡人のろくでなしに育ったのは事実なんだし…)
痴呆のある波平にこうしてなじられる度、いつもカツオは自分自身にそう言い聞かせていた。
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